中・長編小説作品

海辺のブドリ


海辺のブドリ

 カラスが濡れるとからすの濡れ羽色と言って、日本というこの国では、女の髪にとって最も美しい色を指す。
 だが、カラスによってはその色が出ない。特に辺境に住まう者たちの羽は、濡れ羽色を備え得ない。
 では空を飛べるカラスにとっての辺境とはどこか。
 それは海のきわになる。

***

 重くのしかかる夏の光を浴び、壊れた波をかぶりながら海を見ているのは、ブドリという名のカラス。白い泡が砂に消えるそのまぎわにたたずむ。ときおり、しおがたまったのか、涙を流しているようにも見えるその横顔、苦痛に耐えるように固く結ばれたくちばし。が、なにを考えているかは、浜を走り抜ける犬や風をつかむとんびや流木に腰かける人間どもにはわからない。そもそも彼らがブドリをカラスと思っているか怪しい。まるでとんびのように茶色く褪せた翼は羽が抜けおち、広げると向うが透けてしまう。他のカラスたちが大きさと色つやを比べあうくちばしも薄く弱々しい。海と陸のきわにあって、カラスとしてもきわにいるブドリ。

***

 音を立てずにブドリのそばに一羽、カラスが降り立つ。雄として、八幡宮の空でもひときわ輝く漆黒の翼に、雄々しく張り切ったくちばし、北の大クスノキに住まう指輪の浩二だ。…

作品概要

  • 陸と海のきわに、ひどく醜いカラスがいた。呪いを受けたようなその異形のカラスの名はブドリ。海辺のブドリと呼ばれている。そして隣には、ブドリを慕う指輪の浩二。
    あるとき、八幡宮の空に旅の美しい母子がやってきた。浩二は瞬時に母烏に恋してしまう。母子は、海辺に連れて行って欲しいというが、八幡宮の長、やぶにらみのサカシマは、二人がとある空の長の血筋と聞き、案内を浩二に頼む…。
  • 中編。
  • 短編「濡れ鳥」と対をなすカラスのお話。
  • 小説というか寓話みたいな感じ。

声・感想・掲載

海と傷


海と傷

作品概要

  • 幼い頃、事故によって父を殺してしまった大雅と母に捨てられ、性的虐待を受けながら育った菜々子の物語。
  • 中学生と高校生。
  • 性とか親とか死とか。
  • 原稿用紙で710枚前後。
  • 2011/12/3 大きく改訂。
    具体的にはエピローグ的な最後の章を削除。
    今思えば蛇足だった。