短編小説作品

二度と戻らない


二度と戻らない

 ある晴れた日の午後、ベランダから音がするのを聞きつけ、僕と妻は耳を澄ませた。隣の部屋から来るようだ。男の話し声、何かを言い合っている。
 白い壁、低くはない手すり、僕らが住むのは七階でそれなりに高い。色んな高さの部屋に住んだことがあるが、四階を超えると通行人と目が会わなくなる。三階だとぎりぎり気づかれるが、四階以上はあまりない。人の目から消えることのできる高さ。僕と妻はそんな部屋に住み、見晴らしのいい、リビングと同じくらい広いベランダの向こうにある空を…

作品概要

  • 短編。
  • 夢系のお話。
  • なのでうまく説明できないけど。
  • 原稿用紙24枚。

濡れ烏


濡れ烏

 カラスがたくさん集まってくちばしの大きさを比べている。大きい方がよりカラスらしいのだ。この界隈で一番のくちばしを持っているのは、八幡宮を根城にしているソウショウというオスだ。ソウショウはまだ若いのに、そのくちばしと美しい漆黒の翼と聡明な頭脳、そして黒い瞳の奥底で輝く誇り高き魂によって、近隣のカラスたちの尊敬を集めていた。まるで七代前のザジという伝説のボスの生まれ変わりだと、老カラスたちはガアガア言っていたものだ。

作品概要

  • 短編。
  • カラスのお話。
  • 小説というか寓話みたいな感じ。
  • 原稿用紙47枚。
  • 対をなす中編「海辺のブドリ」も出来ました。濡れ烏が好きという方が、ブドリをどう思うかは、わかりませんが、こちらも是非お読みください。

声・感想・掲載

水族館の猫


水族館の猫

 僕は浜辺にいた。
 別荘近くの小高い砂山に、群青のワンピースを着てサングラスをした若い女が座っているのが見える。股を大きく開いている。下着は見えない。豊かな陰毛が見える。女は僕には気づいていないようだが、まなざしが見えないからわからない。
 立ち止まって女をしばらく眺めたが、女は僕の方を見ず、僕は自分の別荘に向かって歩く。つい一月前、それまで四年一緒に暮らした恋人に別れを告げられ、自分の心を慰めようと、父が使っていたこの南国の別荘に来ていたが、そんな女は初めてだった。それから波を見た。引いては寄せ、寄せては引き続ける波。

作品概要

  • ショートショート。
  • 浜辺と別荘で起きた物語。
  • 原稿用紙10枚。